あらすじ
平凡な会社員として生きていた男は、ある夜、プレイ中だった乙女ゲーム『リュミエールの天秤』の悪役令嬢――ヴェルシアナ・アルセリードとして目を覚ます。
しかも転生したのは、ゲーム本編が始まる十年も前の幼少期。
ヴェルシアナは、美貌、家柄、魔力、教養、そのすべてに恵まれながらも、高慢で感情的な性格ゆえに自ら周囲との関係を壊し、やがて婚約破棄、没落、そして最悪の場合は処刑へと至る少女だった。
そんな未来など、もちろん御免だ。
前世では男だった自分が王子に執着する理由もなければ、これから現れるヒロインを虐める理由などもっとない。
ならば、やるべきことは単純だった。
怒鳴らない。
人を見下さない。
使用人には礼を尽くす。
攻略対象には必要以上に近づかない。
そして何より――悪役令嬢らしい振る舞いを徹底的に捨てること。
処刑台だけは絶対に御免。
ただそれだけを考え、ヴェルシアナは幼い頃から言葉遣いも礼儀作法も磨き、誰にも恨まれない完璧な令嬢を目指して生きていく。
しかし本人は知らなかった。
死なないために王子へ深入りしなかったことが、
「唯一、王太子という肩書きに媚びなかった令嬢」
として彼の心に残っていることを。
将来敵になるはずだった少年へ何気なくかけた言葉が、その人生を変えていたことを。
使用人へ当たり前のように礼を告げたことが、絶対の忠誠へ変わっていることを。
そして彼女自身はただ“破滅を避けたいだけ”なのに、その気品と人柄、時折覗く妙に男前な考え方によって、攻略対象だけでなく令嬢たちからまで少しずつ好意を集めていることを。
十年後。
ついに乙女ゲーム本編の舞台となる王立学園へ入学したヴェルシアナは、そこで原作ヒロインと出会う。
今度こそ余計なことには関わらない。
そう決めていた――はずなのだが。
「……あれ? この人、原作ではわたくしを嫌っていたはずですわよね?」
気づけば攻略対象たちは妙に距離が近く、敵になるはずだった令嬢たちは味方になり、原作ヒロインまで何故か自分を慕っている。
そして、中には明らかに好意の重さがおかしい者まで現れ始め――。
悪役令嬢として死ぬ未来を避けたかっただけの元男が、幼少期から積み重ねた無自覚な人たらしによって原作そのものを変えてしまう話