あらすじ
生まれつき病弱だった三十三歳の男には、やりたいことがたくさんあった。
山を歩いてみたい。
キャンプをしてみたい。
畑を作ってみたい。
自分の手で何かを作ってみたい。
けれど、その多くを叶えられないまま、彼は交通事故に巻き込まれて命を落とす。
最期に願ったのは、たった一つ。
――もっと丈夫な身体だったら。
次に目を覚ました時、彼は十八歳ほどの健康な身体となり、見知らぬ森の中にいた。
そこが、濃すぎる魔素によって人々から恐れられ、誰も奥まで足を踏み入れることのできない巨大森林――《忌地》の中心部とも知らずに。
魔法が当たり前の世界で、彼は魔法を一つも使えない。
持っているのは、前世で本やテレビから身につけた少しばかりの知識と、丈夫になった身体だけ。
まずは水を探そう。
次は火を起こそう。
雨を凌げる寝床を作ったら、その次は食べ物を探してみよう。
失敗しながら、試しながら。
昨日できなかったことを、今日は一つできるように。
そうして一人で始まった森での暮らしに、やがて一匹の白い子犬が姿を現す。
そして、また一人。
また一人と。
長い間、人の寄りつかなかった森に少しずつ新しい暮らしが生まれていく。
これは世界を救う英雄の物語ではない。
国を興すための物語でもない。
前世でできなかったことを楽しみながら、誰も住めないと言われた森を少しずつ切り拓いていく――。
一人の転生者と仲間たちの、のんびり異世界開拓譚。