あらすじ
『月夜の泥舟』あらすじ
幕末の京。路地裏に、夜だけ暖簾を掲げる小さな飯屋があった。
名は――《月夜の泥舟》。
店主は異世界ミッカドキアからやってきた半人半魔の兄弟、ショーとセイ。元衛兵の兄ショーは炭火焼きと蕎麦・うどんを得意とし、店内の武器を消す「武装解除術」を操る。弟セイは王宮料理人を二百年務めた料理と酒の達人で、転移術によって客を安全な場所へ送り届ける。
カウンター三席、半個室二つ。
そこへ坂本龍馬、新選組、薩摩や長州の志士、公家や商人たちが訪れる。
兄弟が出すのは、火喰鳥、勝ち鬨魚、吸血魚、一角牛――奇妙なのに、どこか日本の食材に似た異世界料理。そして異世界の歴史や文化までもが、不思議なほど日本に似ていた。
だが二人はその謎を追わない。
ショーは料理を作り、セイは料理に合う酒を勧め、二人で客の話を聞く。
店内では刀を抜けない。喧嘩をすれば飯は出ない。敵同士が鉢合わせても、帰りは別々の場所へ。
《月夜の泥舟》だけは、誰も斬り合わない場所だった。
しかし、店の外を流れる歴史までは止められない。
昨日まで笑って飯を食べていた常連が、ある日から来なくなる。
幕末から明治へ。
ほとんど歳を取らない兄弟の小さなカウンターを、時代を動かした人々が通り過ぎていく。
これは歴史を変える物語ではない。
異世界飯を作り、酒を注ぎ、人の話を聞きながら、歴史を見送っていく二人の料理人の物語。