あらすじ
五十代後半のフリーIT技術者・及川徹は、若い頃の離婚以来、子供とも疎遠なまま独り身で暮らしていた。仕事の契約も打ち切られ、将来への不安を抱えた及川は、気分転換のため晩秋の山へ一人で出かける。
山道の峠で、倒れていた道祖神らしき石像を見つけた及川は、それを起こして元の位置に戻す。しかし、その石像は左半分が欠けていた。
さらに進んだ先で、及川は荒れ果てた小堂を見つける。堂内には大日如来像が祀られ、傍らには理趣経と記された経典が置かれていた。疲労した及川が横になると、そのまま眠りに落ち、どこからともなく読経の声を聞く。
目覚めた彼は、見知らぬ屋敷の一室にいた。そこには古風な装束をまとった女性が食事を用意して待っており、自らを「つばき」と名乗る。彼女は「入り口で邪鬼を入れないよう守る仕事をしている」と語るが、それ以上のことは明かさない。
つばきは及川の身の上や独身であることに強い関心を示し、次第に距離を縮めていく。警戒していた及川だったが、彼女の積極的な接近に抗えず、一夜を共にする。
その後、山道を登る初老の夫婦が、路傍に立つ石像を見つける。それは、寄り添う男女の姿が刻まれた道祖神だった。