あらすじ
二一二六年。人口が半分になった日本の、消えかけた町の高校生活。
国は全国を三つに区分している。インフラ更新が保証される継続区域。統合・縮小の対象となる移行区域。道路も水道も学校も順次止められる維持終了区域。判定はすべて行政AIが算出し、政治家は「合理的な結果だ」と言い、AIは「議会の基準に従っただけだ」と答える。
誰も故郷を捨てる決断をしていないのに、故郷だけが消えていく。
高校二年の長谷部湊は、この町を出たい。国立AI監査大学校へ進み、間違った記録を間違っていると言える側に立ちたい。だが学校AIは、彼の旧機械修理の腕を理由に地域維持系を推奨する。進路を拒めば世帯の貢献係数が下がり、同居する百三歳の曾祖母の歩行補助機器の更新が、一年半後ろへ動く。
強制ではない。拒否はできる。代償を本人が払うだけだ。
そんな六月、湊は壊れた通学車の保守記録から、会ったことのない同級生の名前を見つける。
久世遼。出席も成績も健康診断も地域維持実習の履歴もある。ただし、教室に机がない。
その一人を除籍すれば、学年人数は学校存続基準を割る。学校が消えれば、町は維持終了区域へ落ちる。
告発すれば故郷が消える。隠せば、監査官を志す自分が不正の当事者になる。
そして本物の久世遼は、制度の外で生きていた。
十二月二十日、異議申立期限。
誰も決めていない終わりに、誰が自分の名前を書くのか。