あらすじ
婚約の顔合わせを一か月後に控えたころ、神崎蓮は帰国したばかりの九条莉花と再会した。
それ以来、彼は九条家へ来るたびに、なぜか「部屋を間違える」ようになった。
私の部屋と莉花の部屋は長い廊下の端と端にある。それなのに蓮は、いつも平然と言った。
「同じ家族なんだから、そんなにきっちり分けなくてもいいだろ?」
九回目にまた莉花の部屋へ向かったとき、私はとうとう聞いた。
「神崎蓮。あなた、本当に私と結婚する気あるの?」
蓮は、もう間違えないと約束した。
私は、それを最後にもう一度だけ信じた。
けれど両家の顔合わせを兼ねた婚約の食事会の日。
私はホテルで、一人きりのまま夜まで待ち続けた。
届いたのは婚約者ではなく、莉花の誕生日パーティーを映したSNSの動画だった。
薔薇の花束を抱えた蓮の胸へ、莉花が飛び込んでいく。
彼は拒まなかった。
しばらく動画を見つめたあと、私は別の番号へ電話をかけた。
「高瀬さん」
「前に話していた偽装婚約の件、受けます」