あらすじ
受験勉強に集中できるから、という理由で、横浜の高校三年生・シュウは、その夏を山あいの村ですごすことになった。スマホは通じない。風呂は薪で沸かす。買い物はスーパーまで自転車で片道一時間。家にいるのは、いとこのトワひとりだけ。
セーラームーンのノートの表紙に、黒マジックで「シュウ兄のおつかい帳」。かぼちゃ二個、曲がっててもいいきゅうり、成分調整牛乳はNG。買い間違えたらトワの勝ち。三輪の自転車の荷台に立って水田を割って走り、用水路でラムネを飲み、かわりばんこで風呂に入り、おなじ布団で眠る。この村の夜には、匂いがある。
ただ、近づいてはいけない場所がひとつだけあった。裏山の「不遠の森」。採石場で死んだ人々の魂が蝉になって鳴いている、とトワは言う。そして森にいた子どもたちは、シュウにこう教えた——トワちゃんは、蝉の神さまなんじゃ。
トワの声と、シュウの声。ふたつの一人称で語られる、うその夏のはなし。
※近親相姦・性的な描写・自傷の描写を含みます。