あらすじ
父の船を探して港を歩いていた少女、ルナ・イルシディア。
乗り込んだ船が父の商船だと思った――その認識が、そもそもの間違いだった。
彼女が乗り込んだのは、近海で恐れられる海賊団。
女海賊船長・リゼットが率いる海賊船《アルカディア》だった。
自分が海賊船に乗ってしまったことに気づいたルナは、当然のように殺されると思った。
「お父さんの船と間違えただけなんです! お願いです、殺さないでください!」
そんなルナに、船長のリゼットが出した条件は一つ。
次の船場に着くまでの約一か月、船の雑用係として働くこと。
掃除、洗濯、食事の手伝い、荷物運び――。
海賊船の一員として働きながら、ルナは一日、また一日と船上での生活を続けていく。
荒々しい船員たち。
腰に剣を下げた海賊たち。
そして、何を考えているのか分からない女船長。
けれど、船で暮らすうちにルナは少しずつ気づいていく。
海賊たちは、ただ恐ろしいだけの人間ではない。
「おい! 大丈夫か!」
「誰か、船長を呼べ!」
仲間が傷つけば誰よりも心配し、食料が減れば自分の分を削り、弱い者には決して手を出さない。
そして何より――。
怖いと思っていた女船長・リゼットは、誰よりも不器用で、誰よりも優しい人だった。
「手を見せろ」
「これくらい、大丈夫です」
「大丈夫かどうかを決めるのは私だ」
傷ついたルナの手当てをする。
眠れない夜には、何も言わず隣にいてくれる。
そんな海賊らしからぬ優しさを見せるリゼットには、誰にも語ろうとしない過去があった。
その過去を知ったとき、ルナの中でリゼットへの恐怖は、いつしか別の感情へと変わっていく。
もっと、この人のことを知りたい。
もっと、この人のそばにいたい。
「私……船長のことが、好きなのかもしれません」
殺されないために始めた雑用係。
たった一か月のはずだった船上生活は、いつしか少女にとって、自分の居場所と大切な人を見つける旅になっていた。
これは、家柄によって自由を制限されて育った普通の少女が、自由を求めて海へ出た女海賊船長と出会い、初めて恋を知る物語——不器用な女海賊船長と、純粋な普通の少女が紡ぐ、海上百合ファンタジーである。