あらすじ
「エルフィーネ、貴様との婚約を破棄する。聖女の資質もない冷血女め!」
大聖女エルフィーネは、義妹リーゼに『聖女の力』を奪われ、第二王子ローウェンに婚約破棄を突きつけられた。国境の結界も、疫病の鎮静も、飢饉の民を救ったのも、すべて彼女の功績。けれど誰もが、演出された『物語』しか見ていない。
「かしこまりました。では、聖女の務めから退かせていただきますわ」
取り乱すことも、すがることもなく、優雅に一礼して去るエルフィーネ。しかしその夜、義妹の手によって断崖から突き落とされてしまう――。
目を覚ますと、そこは辺境の谷。日に焼けた庶民の手、そばかすの少女。彼女は羊飼いの娘「ネル」に転生していた。
そして知る。老羊飼いが毎朝吹く一本の笛。その旋律こそ、前世で無自覚に口ずさんでいた『聖女の祈り』の正体。山向こうの魔物を鎮め、大地に見えざる膜を――結界を張る、古き技術だったのだ。
国を守っていたのは、聖女の力ではなかった。この谷の、笛の音だった。
ならば、聖女なき王都はいつまで保つのか。すがるように使者を送り込む王都の人々に対し、彼女は微笑む。笛の音は、この谷にしか響かない。私がこの地を離れぬ限り、そして――私が幸せである限り。
羊と、笛と、寡黙な竜人ガイル。前世では何一つ持てなかったものを抱いて、捨てられた聖女は静かに笑う。
「さあ、次はどんな言い訳を、携えてらっしゃるのかしら」
断罪劇は、笛の音一つで終わらせますわ。ざまぁと再生の物語、開幕。