あらすじ
去年の母の日、僕のサプライズは、渡す三十分前にバレていた。
花屋のレジにスマホをかざした瞬間、母さんのスマホが鳴ったからだ。『ユウタさんがカーネーション(一本・四百九十八円)を購入しました』。
現金が消えたこの国では、子どもの買い物はぜんぶ、保護者のアプリに通知される。いつ、どこで、何を、いくらで。見守りは完璧だ。悪いことは、何もできない。
——内緒のいいことも、できないってことに、大人は気づいているんだろうか。
今年こそ母さんを驚かせたい僕は、友達に代理購入を頼んで失敗し、手作りの肩たたき券も「ログが残らない」と却下され、単身赴任の父さんにも断られて、途方に暮れる。
そんなとき、商店街のいちばん外れで、レジのない店を見つけた。
店番のばあちゃんは、カウンターの下から古びた帳面を出して、こう言った。
「はらいは、そのうちでいいよ」
通知されない贈り物と、数字では返せない「ツケ」をめぐる、すこしふしぎな近未来の話。