あらすじ
人間社会にとって幸いなことに、神話存在エルマは長いあいだ、妻として、母として、穏やかに暮らしていた。
その子育てが、一段落した。
そこでエルマは、第二の人生に治癒術師《ヒーラー》を選んだ。
「傷んだところを食べて、足りないところを編み直せば治りますよ」
本人に悪意はない。
むしろ、お淑やかで世話好きな奥様である。
ただし、人間ではない。
人の姿は、巨大な身体を人間一人分へ折り畳んだもの。
本来は触手群を身体の主体とし、長く留まれば土地と身体の境界さえ曖昧になっていく、かつての立入禁止級の上位存在なのだ。
そんな奥様が、小柄で生真面目な盾役ルル、怪異にめっぽう弱い剣士ジン、研究欲の強いエルフ魔術師オクタヴィアとともに、冒険者として各地を歩き始める。
待っているのは、大型魔物に奇妙な生態、その土地ならではの妙な依頼、そして身体の常識を平然と壊してくる怪異たち。
しかも、巻き込まれるのはエルマだけとは限らない。
スライム化。寄生。武器化。淫魔化。
元へ戻ることもある。戻らないこともある。
それでも心が無事で、他人に危害がなく、仕事ができるなら――身体が変わったくらいで、冒険者の仕事は終わらない。
怪異×身体変容×人外×お仕事×紀行。
ときどきかなりフェティッシュな、異世界冒険者コメディ。
依頼をこなし、知らない土地を歩き、その土地のものを食べる。
そしてエルマは、連れ合いのロイドが若い頃に描いた古い地図へ、今の世界を書き足していく。
誰かが怪物を解き放ったわけではない。
誰かが怪物を呼び出したわけでもない。
ただ、神話存在本人が「外へ出てみよう」と思った。
怪異と身体変容だらけの、奥様の第二の人生が始まってしまうのだった。