あらすじ
永禄三年五月。
今川義元率いる大軍が尾張へ迫る中、毛利新介は戦場へ向かっていた。
恐れを消せずにいた。
死ぬことが怖い。
家族を残していくことが怖い。
それでも新介は、織田信長の軍勢とともに桶狭間へ進む。
やがて降り始めた雨は、戦場を泥と血に変えていく。
丸根砦が落ち、鷲巣砦も落ちた。
織田勢が圧倒的に不利に見える中、信長は少数の兵を率いて今川義元の本陣へ迫る。
本陣を守る武士たちは強かった。
主君を守るため、一歩も退かぬ者たち。
その中で槍を振るう、服部小平太。
そして、その奥に待つ今川義元。
新介は、その男を前にして思う。
――勝てない。
それでも、足を止めることはできなかった。
恐れを消すことではない。
恐れたまま、それでも前へ進む。
豪雨の桶狭間で、一人の若武者は自らの恐れと向き合いながら、歴史に残る一太刀へ踏み込んでいく。