あらすじ
「……あなた、誰ですか?」
その一言は、兄の心を何度でも壊した。
安城誠二郎には、大切な妹・遙華がいる。
しかし彼女は、壮絶ないじめをきっかけに前向性健忘を発症し、新しく積み重ねた記憶を失い続ける病と闘っていた。
昨日笑い合ったことも。
交わした約束も。
兄の存在さえも。
すべては翌日には”白紙”へ戻ってしまう。
それでも誠二郎は、毎日病院へ通い続ける。
「お前には兄がいる」
「俺の名前は安城誠二郎」
何度忘れられても、何度でも伝え直すために。
そんなある冬の日。
遙華は初めて、自ら「外へ出たい」と願い、兄妹は雪だるまを作る約束を交わす。
忘れてしまうはずの約束。
叶うはずのない約束。
──それでも、その小さな奇跡は静かに動き始めていた。
これは、失われた記憶を取り戻す物語ではない。
何度忘れられても、想いだけは忘れない兄と妹が紡ぐ、切なくも温かな希望の物語。
あなたは、この物語の最後で、大切な人の名前をもう一度呼びたくなる。