あらすじ
最後の投影が終わると、プラネタリウムには夜より深い静けさが残る。
科学館でひとり星空を案内する佐々木蒼は、閉館後の客席に残る女に気づいた。立花灯。とりとめなく星の話をしては夜ごと現れる、掴みどころのない人。
「消えた星の光も、しばらくは届き続けるんです」
蒼が何気なく口にした説明を、灯はまるで自分のことのように聞いていた。
彼女には、帰る家がある。優しい夫もいる。それでも「ここに来ると、私が私でいられる」と笑う灯から、蒼はどうしても目を逸らせない。
やがて灯は、少しずつ、何かを忘れはじめる。
――忘れていくはずの彼女が、なぜ、蒼の落としたボタンを持っていたんだろう。
触れられないほど遠いのに、光だけは届いてしまう。
消えてしまう前に、たった一人に見つけてもらった人の、静かな恋の物語。
※不倫・死を連想させる描写を含みます。