あらすじ
半年ぶりに旅から戻ったら、義母がわたくしの弔いを出し、七年前にわたくしが鋳た鐘の銘まで義妹の名に打ち替えられておりました。部屋も道具も形見分けが済み、目録から漏れていたのは「本人が戻ってくる」という一点だけ。
騒ぎません。名乗りもいたしません。ただ、自分の弔いの席に、生きたまま参列するだけ。鐘の外側は誰にでも打てますが、内側の三つ目の刻みは、湯の前に立った者にしか入れられないのです。
弔いの鐘が鳴った朝、余韻は同じところで切れました。やがて領の記録役がわたくしの生存を確かめ、鋳場を任せてくれます。尾の短い鐘を五つ並べた末に「また鋳ってくれ」と門前へ立った義母へ、同じ一句を静かにお返しするお話。