あらすじ
看板屋の字が、ある朝、急に上手くなっていた。
商店街の誰もが褒めた。誰も、変だとは言わなかった。
立ち止まったのは、鍛冶屋の若造が一人だけだった。
完璧な複製が、世界を書き換えている。
敵は殺さない。壊さない。より良いものに置き換えるだけだ。
置き換えられた側の暮らしは、むしろ良くなる。だから誰も抵抗しない。誰も気付かない。
火村燈、二十二歳。刀鍛冶の四代目候補。
打ち急ぐ癖が直らず、三年、刀を一本も仕上げていない。
父が遺した桐箱の中に、銘のない刀と、黒漆の印籠が入っていた。
変身の燃料は「朱」。自分が自分である分量を、燃やして作る。
減った分は、二度と戻らない。使い切れば、複製と見分けが付かなくなる。
力の源は才能ではない。
下手さ、遅さ、震え、詰めの甘さ。
複製出来ない手癖だけが、武器になる。
五人の職人見習いは、毎回、より劣ったものを守る側に立つ。
倒した後に残る本物は、たいてい、贋物より下手である。
それでも彼らは、そちらを選び続ける。
全百五十話。劇中で三年。
各話の終わりは句点で閉じない。「ただし、」で切れる。
そして次の話の一行目が、その続きになる。
一番になれなくていい。一点物になれ。