あらすじ
僕の傷は三秒で消えて、近くにいる誰かへ移る。
誰が傷つこうと、自分でなければ構わない。ずっと、そう思っていた。
ある日僕は、隣の席に座る女子生徒へ、指先の小さな切り傷を押しつけた。
たかが切り傷だった。
けれど彼女───草川栞は、僕の傷を見た途端、何かに怯えるように教室から逃げ出した。
彼女はなぜ、僕の傷を恐れたのか。
なぜ、その身体には傷が絶えないのか。
怪我で学校を休み始めた栞の家へ、僕は担任に命じられてプリントを届けることになった。
雨の日に傘を借り、少ししょっぱいクッキーをもらい、互いの名前を呼ぶようになる。
そうして僕は初めて、自分以外の誰かが傷つくことを怖いと思った。
これは、他人の痛みを顧みなかった僕が、たった一人の痛みだけは見ていられなくなるまでの話。