あらすじ
東京・麻布台ヒルズの中央広場。街が朝の光を静かに受け入れるころ、毎日響いていたピアノの音が、ある朝突然途絶えた。
その沈黙に心を乱された、映画制作会社の音楽プロデュース部門で劇伴音楽の発注と選定を担当する朝比良 景都。彼は高層階の窓辺を離れ、初めて広場に降り立った。そこで彼が出会ったのは、夢を諦めようとしていた作曲家の八雲原 環だった。
名前よりも先に旋律を知り、言葉よりも先に沈黙を分かち合う。肩先ほどの距離は、季節が光を重ねるたびに少しずつ近づき、互いの存在は静かに心に刻まれていった。
劇伴音楽への最後の挑戦。選ぶ側と選ばれる側という越えがたい境界。それでも環は、自分の音を誰かの人生に残したいと願い続ける。
やがて一本の映画が、その願いを現実へと変えていく。
夜の気配が街を包み、新しい朝が広場に降りるころ、響き始めた旋律は夢だけのものではなくなっていた。
誰かを待つ朝と、誰かに届く音。その積み重ねが、まだ名前にならない恋を、未来へそっと導いていく。