あらすじ
恋に落ちる瞬間はいつも静かで、美しく、痛みを伴う。
心の奥からあふれる芳醇な感情を押し隠しながらも、二人の運命を揺らす謎が、そっと息をひそめている。
互いの影に触れながら少しずつ心を寄せていく物語は、まだ誰も知らない真実へ向かう旅。
その先に待っているものとは……
転職したばかりの相澤絵梨香は、慣れない仕事に追われながらも、どこか新しい人生の予感を抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、冷たくて、無愛想で、誰も寄せつけないのに、息を呑むほど美しい青年・来栖零。
従兄妹で幼なじみの江藤蒼汰に親友と紹介されたものの、初対面は最悪だった。
けれど再会を重ね、会話を交わすうちに、絵梨香は気づき始める。
彼は、" 誰にも触れられない場所に傷を抱えている人 " なのだと。
ふとした瞬間に見せる孤独な横顔が、絵梨香の心を少しずつ変化させる。
やがて、絵梨香の人生に " 過去からの光 " が差し込む。
幼い頃に夏を共に過ごした特別な存在、西園寺章蔵。
彼の生前葬という奇妙な依頼をきっかけに、絵梨香は再び章蔵と向き合い、そこで偶然再会した零が西園寺家の孫であると知る。
章蔵を深く愛し、あのかけがえのない思い出の夏を共にした人物だとわかって、その縁の深さに絵梨香の胸の奥で何かが静かにほどけていった。
しかし、章蔵の晴れ舞台は一瞬で悲劇へと変わり、祝宴は " 密室殺人 " へ。
零は孫としての悲しみを押し殺し、鋭い頭脳で真相へ踏み込んでいく。
警察官ではない彼は、捜査官たちに「フィクサー」─ 影で事件を動かす者と呼ばれ、一目置かれた存在だった。
そして、絵梨香自身にも静かな危険が忍び寄ってくる。
突然の体調の不調、心の揺らぎ、そしてマンションのポストに届いた脅迫状。
恐怖が胸を締めつけるなか、それでも絵梨香は、零と蒼汰と共に真相へ向き合うことを選んだ。
彼らを繋ぐ過去の夏と現在の事件。
交錯する思いと絡み合う秘密が、光と影を突き付けてくる。
そんな中で、冷たく美しく壊れそうな零の孤独に触れた絵梨香の世界は……静かに変わり始める。
『The Fixer’s Paradox』
まだ誰も知らない " 始まり " の交差点。
この出会いが、秩序ある世界に
微かなほころびを生むことを──
この時、誰も知る由はなかった。