あらすじ
「面倒だから、一回で終わらせたいだけ。」
王国記録局第一記録課に勤める下級書記官、オードリー・ヴァレンティアは、誰もが認める優秀な書記官。
膨大な資料を正確にまとめ、難しい案件も淡々と片付け、上司からの信頼も厚い。
だが本人にその自覚はない。
残業はしたくない。無駄なことは嫌い。できることなら楽をしたい。
だからこそ、「後で困るくらいなら最初に全部終わらせよう」と考え、一度で仕事を片付けているだけだった。
そんなオードリーのもとへ、交易大国シャムス王国から新たな駐在大使、ラシード・アル=ナシームが赴任してくる。
誰にでも笑顔を向ける完璧な外交官。
しかしその笑顔は、幼い頃から叩き込まれた外交術による“仮面”だった。
人の本心を見抜くことに長けたラシードは、不思議に思う。
誰もが努力を隠したがる王宮で、彼女だけは努力すらしていないように見えるのに、なぜこれほど結果を出せるのか。
観察するつもりだった。
ただ、それだけのはずだった。
けれど知れば知るほど、彼女は「天才」でも「聖人」でもなかった。
面倒くさがりで、口は少し悪くて、休みの日は昼まで寝て、甘いものには目がなく、それでも「やるべきことだけはちゃんとやる」。
そんな飾らない生き方に、いつしか彼は心を奪われていく。
一方のオードリーは、完璧すぎる笑顔を向けてくる大使がどうにも苦手だった。
これは、“頑張っているつもりがない”書記官と、“頑張っている姿を誰にも見せない”外交官が、お互いの本当の姿を知っていく物語。