あらすじ
神格鑑定局に勤める水城澪は、山間の寒村・依代村へ派遣される。
村では、死んだ子どもが生前の姿と記憶を保ったまま家族のもとへ帰ってくる現象が続いていた。村人たちは、集落の奥に祭られた「母返し様」の奇跡だと信じ、正式な神格認定を求めている。
帰還した子どもは母親の顔を覚え、好きだった食べ物を口にし、死ぬ直前の出来事まで正確に語った。偽物とは思えない。
しかし澪は、村の学校名簿から、別の子どもの名前が一人ずつ消えていることに気づく。
死者が一人帰るたび、生きていた子どもが一人、記録と記憶から失われていた。
母返し様は死者を蘇生しているのではない。生者の人生を空席にし、そこへ死者を座らせているのだ。
調査を続ける澪は、二十年前にも同じ現象が起きていたことを突き止める。帰還したのは、幼いころ事故死した自分。そして代わりに消されたのは、存在すら知らなかった姉だった。
さらに、母返し様の正体が、二十年前に死亡した澪の母・小夜子であることも判明する。
局が提示した選択肢は二つ。
母返し様を有益な神として認定すれば、澪は生き続けられる。しかし、今後も死者を戻すたびに別の子どもが消える。
邪神として封印すれば犠牲は止まるが、神の力で帰還した澪自身も存在を失う。
澪は、自分を生かした母への鑑定書を書く。
それは母を神にする書類ではない。
母の愛によって隠されてきた罪に、正しい名前を与えるための鑑定書だった。