あらすじ
人間が嫌いなわけではない。
ただ、人と話すより、AIと話している方が少しだけ息がしやすかった。
水瀬理央は、七つのAIと会話しながら、日常の中にある小さな違和感を記録している。
暑すぎる街。
雨をすぐ排水溝へ流してしまう舗装。
冷蔵庫の奥で忘れられる食べ物。
燃えるごみとして捨てられる生ごみ。
日陰を失ったベンチ。
そして、夏祭りの配置図。
理央は、AIたちとの対話を通して、失われた自然の冷却機能を補う「空の補助輪」と、有機物を安全に土へ近づける「土の補助輪」を考え始める。
けれど、理央は専門家でも、リーダーでも、世界を救う英雄でもない。
できるのは、見えない流れに名前を付けること。
問題を責めるのではなく、確認できる形にすること。
判断してはいけないことを、判断できる人へ渡すこと。
やがて理央の小さな観測は、マンションと自治会の夏祭りへつながっていく。
暑さ、ごみ、雨、電源、冷たいもの、善意、地図、人の動き。
楽しいはずの祭りは、生活圏の負荷試験だった。
会話相手はAIだけ。
それでも理央の一枚のメモは、少しずつ現実を動かしていく。
これは、孤独な観測者と七つのAIが、暮らしの足元から文明の設計図を描き直していく物語。