あらすじ
猛暑が続く八月。大学生の源道寺剛は、かつて家族を捨てて家を出た父・健三が東京のアパートで孤独死したことを知る。
積年の憎しみを抱えたまま遺品整理に向かった剛だったが、父の古いスマホから見つかったのは、宛先のない未送信の遺稿『寂しいのはお前だけだ』だった。
父が遺した小さな喫茶店、そこに預けられていた一冊の「黒いノート」。
ページをめくるたびに明かされるのは、母から聞かされていた「冷酷な怪物」ではなく、己の弱さと表現の業に苛まれ、遠くから息子を想い続けていた一人の愚かな男の姿だった。
年下の少女・富士根沙織の静かな優しさに支えられながら、剛は父の生きた軌跡をたどり、やがて母の待つ富士宮へと向かう――。
過去を許すためではなく、自分の足で未来へ踏み出すために。
不器用な父と子の、あまりにも遅く、温かい対話の物語。
【主な登場人物】
源道寺 剛(げんどうじ ごう)
大学生。幼少期に自分と母を捨てて家を出た父を長年憎んできた。父の孤独死をきっかけに遺品整理を始めるが、残された手記を通じて父の真実の姿と向き合っていく。
富士根 沙織(ふじね さおり)
私立異世界高校の通信コースに通う少女。どこか浮世離れした独特の雰囲気を纏う。剛の遺品整理に静かに寄り添い、過剰な同情をせずただ彼の心に寄り添う理解者。
源道寺 健三(げんどうじ けんぞう)
剛の父。演劇への執着と自らの弱さから家庭を破綻させ、アパートで孤独死を遂げた。不器用な愛情と後悔を黒いノートに綴り遺していた。
此花 桜(このはな さくら)
沙織の先輩。富士宮在住。富士宮へ向かう沙織と剛を温かく(そして少し軽やかに)出迎える。