あらすじ
聖フェリス学園高等部へ入学した橋本由実には、胸を張って得意だと言えるものがなかった。
部活動紹介の日、二年生の佐伯香苗に強引に勧誘され、吹奏楽部の仮入部へ参加した由実は、香苗が吹くアルトサックスに憧れる。
けれど、由実に任されたのは、部室の奥で長年使われてきた一本のテナーサックスだった。
金色の楽器が並ぶなか、一つだけ深い赤色をした古い楽器。
希望していたアルトではなく、誰も担当する者がいなかったテナーを押し付けられたのだと思い、由実は落ち込む。
それでも、世話焼きで少し乱暴な香苗に姿勢や呼吸を教わりながら、由実は少しずつ音を出せるようになっていく。
初めての合奏。地域での演奏会。夏のコンクール。
失敗し、悔しがり、それでも誰かと音を重ねるうちに、由実は気付いていく。
テナーは、旋律と低音、人と人をつなぐ楽器なのだと。
そして、自分が楽しみにしていたのは練習だけではなく、香苗と過ごす放課後そのものだったのだと。
やがて由実は、自分の意思で新しいテナーサックスを選ぶ。
しかしその直後、香苗から進学準備のため年内で吹奏楽部を辞めると告げられてしまう。
先輩がいなくなっても、自分は音楽を続けられるのか。
好きな人の隣にいるためには、同じ場所に残ってもらわなければならないのか。
何も持っていないと思っていた少女が、赤いテナーと一人の先輩との出会いを通して、自分だけの音と、誰かへ渡せるものを見つけていく。
これは、大会で一番になる物語ではない。
異なる音を持ったまま、大切な人と同じ曲を演奏できるようになるまでの、吹奏楽部の一年間。