あらすじ
紹介文~登場人物の紹介とあらすじ~
i)登場人物の紹介
【アセル】
二十九歳の街道監査官。勝ち気で冷静。剣ではなく帳簿と測量尺を手に、数字の裏側にある暮らしを守ろうとする。閉鎖命令を携えて辺境へ向かうが、現場を知るほどに自らの判断を問い直していく。
【ヴィリ】
五十三歳。左目に古傷を持つ、元王国軍将軍の渡し守。事故が起きれば誰より早く動く一方、自分の経験を信じすぎる頑固さもある。十八年前の敗戦の責任を背負い、孤独に生きてきた。
【タルザ】
控えめながら、危険を察すると迷わず退避を命じる結紋測量師。崩落、水位、風圧、証言を一枚の図へ整理し、人命を守る設計を積み重ねる。
【エルネス】
巡回司祭を兼ねる王国弁務官。対立する意見を簡潔に整理し、反対者にも発言の場を渡す交渉役。ヴィリの旧友だが、友情を理由に事実を曲げることはない。
【マルワネ】
旅商人を装う元密偵。人を騙すことには長けているが、逃げ場のない者から利益を得ることを嫌う。孤独を好むふりをしながら、仲間と囲む食卓の席を誰より気にしている。
【ハンス】
水車や風門、灯台を修理する結紋技師。困難を見るたび「無理だ」と言って片付けを始めるが、歯車が噛み合う瞬間には子どものように笑う。過去に途中で投げ出した仕事と向き合っていく。
【ボルト】
四本の革長靴を履いた老犬。特別な魔法は使えないが、優れた嗅覚と帰巣本能で、一行を忘れられた道へ導く。人間たちの深刻な空気を、本人だけはまったく気にしていない。
ii)あらすじ
王都の街道監査官アセルが辺境へ持ち込んだのは、壊れた橋を正式に閉鎖するための命令書だった。
しかし霧の河原で出会ったのは、事故の瞬間に誰より早く動く片眼の渡し守、ヴィリ。彼は十八年前の戦争で味方を見捨てたとされ、将軍の地位を奪われた敗将だった。
帳簿を信じるアセルと、現場経験を信じるヴィリ。顔を合わせれば衝突ばかりの二人は、測量師、弁務官、元密偵、技師、そして長靴を履いた老犬と共に、崩れた橋や沈む湿地、閉ざされた鉄壁都市、七つの吊り橋、海霧の灯台、北方の巨大風門を巡ることになる。
道が壊れた原因を調べるうち、十八年前に封じられた「共同街道の誓い」と、ヴィリの敗戦記録に隠された改ざんの痕跡が浮かび上がる。
けれど、直すべきものは橋や機械だけではない。
数字からこぼれ落ちた人々。
責任を一人へ押しつける仕組み。
失敗を認められない大人たち。
そして、幸福を受け取ることを諦めた敗将の心。
不器用な六人と一匹が、それぞれの得意と失敗を持ち寄り、壊れた道と人の縁を一本ずつつなぎ直していく。
これは、閉じるために来た女と、過去に取り残された男が、互いの判断を認め合うまでの街道再建物語。