あらすじ
山本隆は、子どもの頃、秋刀魚が嫌いだった。
臭くて、苦くて、骨が多い。秋になるたび食卓へ並ぶその魚を、何がおいしいのか分からないまま、父に叱られながら食べていた。
それから年月が過ぎ、隆は結婚し、一人の息子を持つ父親になった。
ある秋の日、高価になった秋刀魚を家族のために買って帰る。しかし、息子の健太は一口食べるなり、「苦い」「臭い」「骨がある」と箸を置いてしまう。
どうして食べないのか。せっかく買ったのに。大人になれば、この味が分かるのに。
そう言いかけた隆は、かつて父から向けられた言葉と、自分の声が重なっていることに気づく。
一尾の秋刀魚を囲む食卓で描かれる、父から子へ受け継がれるものと、受け継がれないもの。
同じものを好きになれなくても、同じ食卓にいることはできるのか。
親子の愛情と押しつけ、その境目を静かに見つめる物語。