あらすじ
二十九歳、無職、貯金ゼロ。ついでに、メンヘラ。
信じていた恋人に、貯金も何もかも持ち逃げされた。その男が抱えていた厄介ごとのせいで職場にもいられなくなり、仕事も辞めた。気づけば、実家の天井のシミを数えるだけの毎日。人を信じる機能は、そこで完全に壊れた。
そんな私が、藁にもすがる思いで始めたマッチングアプリ。釣り上げたのは、四つ上の歯科医師だった。
やった。玉の輿。この人だけは、絶対に離さない。
そう決めた瞬間から、私のブレーキは仕事を放棄する。
返信がこなければ三十七回の着信を残す。夜中に眠っている彼を叩き起こして問い詰める。教えてもらってもいない勤務先を自力で調べ上げ、患者として乗り込む。
普通なら通報される。
なのにこの男、逃げない。逃げないどころか、私を叱りもせず、淡々と手を出してくる。
風呂に一週間入っていないと知れば、浴室に運んで丸洗い。寝落ちすれば、歯を磨く。丸めた洗濯物は、黙って畳み直す。
やっていることは、完全に飼育。
そのうち合鍵まで渡され、実家からは段ボール三箱で強制送還され、私の新しい肩書きは「ヒモ」に決まった。
三食昼寝つき。お小遣いつき。罪悪感つき。
玉の輿への道は、極めて順調。
順調なのに、なぜか毎日、泣いたり笑ったりしている。
寄生する女と、逃げない歯科医師。歪なカタチで始まった、人生逆転の記録。