あらすじ
「百日後、お前が彼女の首を落とせ」
戦闘には使えない固有魔術《残響視》しか持たず、無能と蔑まれてきた下級監察官ルーク・アーヴィン。
左目の視力を完全に失う前に監察局を辞め、母の時計店を継ぐつもりだった彼は、最後の任務として、王太子暗殺未遂の罪で死刑判決を受けた公爵令嬢セレスティアの監視役を命じられる。
百日間、彼女を見張ること。
そして処刑当日、自らの手で彼女の首を落とすこと。
黒い手袋を着けた美しい令嬢は、ルークを冷たく拒絶した。
「百日後にわたくしを殺す方と、親しくするつもりはありません」
その夜。
ルークの机に、存在しなかった一通の手紙が現れる。
愛する夫へ。
今夜十一時七分、私は一度殺されます。
どうか、今度は間に合ってください。
筆跡はセレスティア本人のもの。
だが手紙を書いた女性は、十年後の彼女であり、ルークの妻を名乗っていた。
半信半疑で牢へ向かったルークは暗殺者を発見し、セレスティアの命を救う。
それ以降、彼のもとには毎朝、未来の妻から手紙が届くようになる。
毒入りの食事。
牢へ忍び込む暗殺者。
改竄された証拠。
王太子暗殺事件に残された矛盾。
手紙に記された危機を一つずつ乗り越えるたび、罪人として扱われていたセレスティアの真実が明らかになっていく。
そして、ルークを処刑人だと憎んでいた彼女も少しずつ変わっていく。
初めて名前を呼ばせる。
同じ食卓へ座る。
彼の帰りを待つ。
誰にも見せなかった弱さを打ち明ける。
触れた相手の時間を止めてしまうため、決して外すことのなかった黒い手袋を――彼の前でだけ外そうとする。
しかし、未来から届く手紙にも異変が起き始める。
最初は夫への愛情に満ちていた文章から、少しずつ思い出が消えていく。
私たちは夫婦だったそうです。
あなたの顔を、もう思い出せません。
手紙を一通送るたび、未来のセレスティアはルークとの記憶を失っていた。
そして百日目に待っているのは、彼女の処刑だけではない。
過去の痕跡を見ることしかできなかった男と、現在の時間を止めることしかできなかった女。
未来で夫婦になると決められた二人が、予言に従うのではなく、今の自分たちの意思で未来を選び直す。
処刑まで、あと百日。
これは、誰にも素手で触れられなかった悪役令嬢が、たった一人の監視官へ手を伸ばすまでの、異世界謎解き純愛ファンタジー。