あらすじ
写真コンテストで挫折し、愛用のカメラを手放そうとしていた高校生の相沢朔(あいざわ さく)。夏の日の放課後、彼が一人佇む写真部室へ、転校生の少女・白石葵(しらいし あおい)が突然飛び込んでくる。朔の写真を偶然見て感動したという葵は、無邪気な笑顔で「私をモデルに写真集を作ってほしい」と強引に依頼するのだった。
葵の押しの強さに押される形で撮影を受けることになった朔。夏休み、二人は街のあちこちを巡り、レンズ越しに特別な時間を重ねていく。葵のまっすぐな情熱に触れるうち、朔は再びカメラと向き合う喜びを取り戻していった。しかし同時に、葵が見せる微かな違和感――段差につまずく仕草や、眩しそうに目を細める姿に、朔は拭えない不安を覚えていた。
訪れた夏祭りの夜、大輪の花火が打ち上がる下で葵は突然倒れてしまう。病院で明かされたのは、葵の目が進行性の病に侵されており、この夏の終わりには完全に視力を失ってしまうという衝撃の真実だった。彼女が写真集を望んだのは、世界が暗闇に包まれる前に、自分が見た美しい光と景色を形に残したかったからだったのだ。
真実を知り打ちひしがれる朔だったが、葵の「私の暗闇を照らす光になって」という願いを受け止め、彼女の「最後の光」を記録し続けることを心に誓う。
八月三十一日。二人が出会った思い出の写真部室。西の空が言葉を失うほど美しい夕焼けに染まる中、葵の瞳からついに最後の光が消え去る。絶望の暗闇が訪れるその瞬間、葵は誇らしく微笑み「私を、撮って」と囁いた。朔は溢れる涙を拭い、彼女が教えてくれた世界への愛を胸に、渾身のシャッターを切る。
数年後。プロの写真家となった朔は、初の個展『君の残光』を開催していた。会場に現れたのは、成長した葵。朔は完成した特別な写真集――写真の輪郭が浮き出る凹凸加工と点字を添えた本を、彼女の手にそっと重ねる。光を失っても変わらない二人の絆と、あの夏の残光は、これからも永遠に二人を照らし続けていく。