あらすじ

「寝床係は廃止だ。神獣は眠らせない。ならば寝床も要るまい」  十七歳のフィアは、その日、職を失いました。  王宮の獣廏で藁を替えるだけの、いちばん下の係です。神獣を動かすのは御獣官さまのお仕事で、フィアは誰の役にも立ちません。剣も魔法も使えません。  ついでに言えば、フィアは生まれてから一度も眠ったことがありません。  だから夜番はいつも彼女で、三百年鳴り続けている〈覚鈴〉の音を、十七年ぶん聞いてきました。神獣を眠らせないための鈴です。  その日――新しい女王の戴冠式で、三百年眠っていない最古の神獣が錯乱しました。  騎士が飛び、魔導師が吹き飛び、石畳が割れて。  フィアは考えるより先に、その大きな頭の下へ、自分の膝を差し入れていました。  銀灰の巨獣は、まばたきを二回して。  ――眠りました。  同時に、王都中の魔法が止まりました。灯りが落ち、魔導井戸の水が止まり、宙に浮いていた橋の石が落ちました。  そして、まどろみの底で、声がしました。 「世界の枕を、やっと見つけた」  夢の中には、黒髪に金の目をした青年が立っていました。彼が人の姿でいられるのは、フィアの膝で眠っている間だけ。つまり――二人が話せる時間は、世界が止まっている時間なのです。 「三百年、目を閉じていない」 「では、お眠りください。わたし、寝床係ですから」 「私が眠ると、この国の魔法が止まる。人が死ぬぞ」 「……なら、死なない止め方を考えます」  眠らせれば世界の機能も止まる。止めなければ神獣が壊れる。  だからフィアは、誰も死なせずに世界を休ませる日――三百年前に廃された臥し日を、もう一度つくることにしました。  手なずけません。倒しません。  ただ、寝床を整えます。  ――ひとつだけ、困ったことがあります。  この世でただ一人、フィアだけが、まだ眠り方を知らないのです。

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カクヨム
カクヨム2026/08/04
  • 現在の作品戦えない寝床係ですが、神獣は私の膝でしか眠りません ~三百年ぶりに眠らせたら、王都の魔法が全部止まりました~