あらすじ
歌を飾る魔法から、歌を見せる魔法へ。
魔法が生活にも祝祭にも根づいた王都ヴァレリア。夜空には王宮光術団の巨大な王冠が輝く一方、灯務局の見習いリラが使えるのは、豆明かりほどの弱い光だけだった。けれど彼女は、その小さな光を細かな粒へ分け、動かし、待たせることができる。
ある夜、リラは路地裏で、セラ・アルメリアの歌を聞く。普段は無愛想で感情を表に出さないセラは、歌うと心を隠せないが人を引き込む歌声を持つ天才歌手だった。歌の呼吸に引かれるまま光粒を動かすと、幼いフィンが「歌が見えた」と声を上げる。リラは消えた歌い手を探し出し、セラへ持ちかける。魔法で歌を飾るのではなく、歌の物語と感情を観客が自分の記憶とともに追体験できる舞台を作ろう、と。
目標は三十日後の星冠祭。二人は闇、炎、水、幻影、音、雷、それぞれの専門家を集める。仲間たちはリラの指示に従う部品ではなく、安全と表現について自分で判断する共同制作者だ。先へ走りたがるリラと、他人に歌を決められたくないセラ。正反対の二人が対等に同じ舞台を作るには、成功する技術だけでなく、相手の声を聞き、必要なら止まり、選び直す力が要る。これは、強い魔法を手に入れる物語ではない。弱い光と隠せない歌が、互いの声を聞きながら一つの舞台を作っていく、舞台創作ファンタジー。