あらすじ
列車が駅を発つ。夜空のもとでは吐き出す煙が星のまだらを濃淡のない黒へ染め上げる。私は個室客車の廊下の窓を閉めながら、その間に星を探すことを些細な楽しみとした。台帳によると、あの田舎駅で1人の乗車があったらしい。私は扉をたたく。「失礼します旦那様。切符の確認に…」だがそこに居たのは少女、めかして着飾った上品な旅人のお嬢さんだった。「ええ…どうぞ」それは確かに男性名で購入された切符。今の金持ちは娘に一人旅を送るものかと、私はまた窓の前にいた。この仕事をすると家のことをつい忘れそうになる。「次の休みは…俺も…」数カ月先の台帳を広げて、私はそっと自分の名前を書き込んだ。
鉄路と蒸気の時代、とある少女の旅が静かに始まっていた。