あらすじ
中学一年生の森川千紘は、美術室の窓から見えるサッカー部の先輩・相沢亮を、誰にも知られないように描き続けていた。
走る姿。靴ひもを結ぶ癖。水を飲んだあとの仕草。
遠くから見つめ、何枚も描くうちに、千紘は自分だけが亮を深く知っているように感じていた。
しかしある日の帰り道、千紘は亮が女子生徒と手をつないで歩く姿を目にする。
悲しみだけではなかった。
女子生徒への憎しみ。自分ではない誰かを選んだ亮への怒り。二人が別れればいいという願い。
その夜、千紘は目にした二人の手を描こうとする。
女子生徒の手を消し、亮の腕を身体の横へ下ろせば、望んでいた亮を描くことはできる。
けれど、それは今日見た亮ではない。
好きな人が自分の知らない場所で、自分の意思によって誰かの手を取る。
その残酷な事実を、少女が初めて描こうとする、静かな初恋の物語。