あらすじ
大正十三年、帝都。
柊千鶴には、生まれつき妙な目がある。千鶴が撮って千鶴が現像した写真には、その人が一番隠したいものが写ってしまう。継母を撮った日から気味悪がられ、十六の年から蔵に住まわされてきた。
震災で父を失い、家の借金だけが残った十八の春。継母は千鶴を、京橋の写真師に売った。
鷹守恭一郎。遺影しか撮らない、死人の顔で銭を取る男だと帝都で噂される人。
差し出された条件は四つ。三年間この館で働くこと。視えたものは誰にも言わず自分にだけ伝えること。夫婦の実は問わないこと。そして——理由は聞かない。
こんなに静かな家は初めてだった。誰も千鶴を怖がらない。
けれど、ひとつだけおかしなことがある。この人を撮ると、何も写らないのだ。嘘をつかない人などいない。隠し事のない人などいない。それなのに旦那様の乾板は、いつまでも白いまま。
「奥様、旦那様は要らないものは買いません」
写真は嘘をつかない。ならば、私に何も見せてくれないこの人は、何を隠しているのだろう。
赤い灯の暗室で、少しずつ像が浮かびあがる。帝都・大正、写真館の契約夫婦の物語です。