あらすじ

餌のない針に、魚じゃないものが掛かった。  祖父が遺した黒漆の和竿・妖竿正宗(ようかんまさむね)。それは魚ではなく、水底に沈んだ怪異(あやかし)の心を釣り上げる竿だった。  夜の池に、狐火の尾が何本も噴き上がる――青年・千吉の“怪異釣り”は、そこから始まった。  偉そうで怖がりな小狐・キュウ。普通の釣りを知り、千吉の無茶を「まだ早い」と止める幼なじみの澪。竿に宿り、厳しい言葉で千吉を叩き直す付喪神・正宗。  河童、猫又、濡女、土蜘蛛。糸を通して伝わる声を、千吉は祖父直伝の作法と、不器用な情だけで手繰り寄せる。  けれど、釣られるのは怪異だけではなかった。忘れられた祠で、キュウは自分の名を思い出す。傷ついた竿を見つめる正宗もまた、かつて忘れられかけた道具だった。  だが、怪異を数値化し冷徹に封じる天才釣客・魚住が立ちはだかる。情か、データか。  真逆の二人がついに同じ糸を握るとき、海そのものを背負う超巨大怪異・赤エイが牙を剥いた。  海はすぐにはきれいにならない。竿の傷も、消えない。それでも千吉は、傷を隠さず、明日も水辺へ向かう。  竹の竿と、科学のライン。二本の糸を、結べ。  ――釣り上げるのは、魚じゃない。水底に沈んだ、誰かの寂しさだ。

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カクヨム
カクヨム2026/08/03
  • 現在の作品妖竿正宗(ようかんまさむね)と幻異の池