あらすじ
「すまない。ネーヴェが発作を起こした」
婚約披露の朝に届いた書き置きは、これで三度目でした。
王立薬院の薬師ノエラ・ハースは、怒りませんでした。怒る代わりに、往診鞄を持ちました。
十年、病室の外へ出ていない幼馴染のネーヴェ・クーレ。婚約者ダニエルが、十年欠かさず通いつづけている娘。その枕元に立って、ノエラは薬瓶の栓を抜き、匂いを嗅いで――気づいてしまいます。
この方を弱らせているのは、病ではない。十年出されつづけた、この鎮静水のほうだと。
そしてネーヴェは、泣きながら告白します。
「……治ったと言ったら、あの方は、もう来てくださらないでしょう?」
ノエラは婚約指輪を外し、薬瓶の横に置きました。
「では、治しましょう。あの方がわたしたち二人を不幸にするための、口実ごと」
減薬に二十週。〈|代診《だいしん》〉には本人の求めと、主治医への通知と、七日の猶予が要ります。恋敵を治す薬師と、治りたくなかった娘と、妹の薬を十年、一度も確かめなかった監察医の話です。
必要とされることは、愛されることではありませんでした。