あらすじ

「……はあ。今週の残業、マジで地獄だったな」 佐藤ケンタ(28)は、夜風に冷めかけた革靴を引きずりながら、最寄り駅からの帰り道をトボトボと歩いていた。 広告代理店の激務に揉まれ、この日の帰宅時間は夜の十一時を回っている。頭の中は「家に帰って、冷えたビールをプシュッと開けて、録画しておいた深夜アニメを一気見する」という、ささやかすぎる生存欲求だけで満たされていた。 その聖域のような計画を実行するため、彼は途中、駅前のスーパーの惣菜コーナーに立ち寄ったのだ。 「奇跡の半額シール……。神様って、案外いるもんだよな」 ケンタは、プラスチックのパック越しに茶色く輝く「特売の惣菜コロッケ(2個入り)」を見つめ、しみじみと呟いた。定価の半額、しめて九十八円。社畜の乾いた心を癒やすには、高級なステーキよりもこの油の衣が染み入るのだ。 右手にそのコロッケの入ったビニール袋をぶら下げ、左手でスマホをいじりながら、いつものアスファルトの歩道を曲がる。 ――その瞬間だった。 視界が一気に、真っ白に染まった。 「……え?」 電柱も、コンビニの看板も、夜空に浮かんでいたはずの月も、音もなく消え去る。 足の下にあったはずのアスファルトの感触がふわりと消え、代わりに胃の腑が持ち上がるような強烈な浮遊感がケンタを襲った。 「うわっ、なんだこれ、地震? いや、地盤沈下――」 慌ててスマホを落としかけ、バランスを取ろうと腕を振り回す。 しかし、目の前に広がったのは、もう「地球の日常」ではなかった。 天地が逆転し、遥か頭上では星々が砕け散り、巨大な光の柱が天を貫いている。地平線の向こうからは、耳をつんざくような地鳴りとともに、青白い雷の奔流が文字通り大陸を切り裂いていた。 ――一秒ごとに、世界が何度もうまれては消滅しているような、正真正銘の「神々の戦場」。 ケンタの手には、さっきまで愛おしく握りしめていた「冷めかけた特売の惣菜コロッケ(2個入り)」の袋が、シュールにぶら下がったままだった。 「いや、なんで俺がここにいるんだよ!!」 これが、後に神界の歴史を(主に気苦労で)狂わせることになる、普通の社畜の最悪すぎる異世界(戦場)進出の瞬間だった。

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小説を読もう2026/08/03
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