あらすじ
三年前、私は婚約者を捨てた。
嫌いになったからではない。
他に好きな人ができたからでもない。
大学病院に勤める医師・白石怜司の母から、こう問われたからだ。
「あなたは、怜司を幸せにできますか」
誰かのためなら、自分を削ってでも駆けつける怜司。
私は彼に支えられてばかりで、本当は彼の優しさに甘えているだけなのではないか。
怜司なら、母親や将来と引き換えにしても私を選んでくれる。
そう分かっていたからこそ、怖くなった。
私は理由を告げないまま、たった一通のメールを残して東京を去った。
それから三年。
海沿いの街で一人暮らしを続ける私のスマートフォンには、今も怜司の番号が残っていた。
消せない。
けれど、かけることもできない。
ただ名前を眺めるだけのつもりだった夜、震えた指が発信ボタンに触れてしまう。
呼び出し音が鳴り、電話の向こうから聞こえたのは、三年間忘れられなかった声だった。
「……美桜?」
慌てて切ろうとする私に、怜司は静かに告げる。
「間違いでもいい。声が聞けた」
「切らなくてよかった」
私は知らなかった。
怜司も三年間、私から電話がかかってくるかもしれないと、番号を変えずに待っていたことを。
好きだったから逃げた女と、置き去りにされても待ち続けた男。
傷つけた事実をなかったことにはせず、すぐに元の関係へ戻ろうともせず、二人はもう一度、言葉を交わすところから始める。
今度は、黙って消えないために。
今度は、一人で相手の未来を決めないために。
三年間止まっていた恋を、「切らずにいられる速さ」で取り戻していく、大人の再会・復縁ラブストーリー。