あらすじ
蜂蜜壺の蓋を、毎朝開けていたのは私だった。
夫より先に起きて、パンを切り分ける。
食卓を整え、銀の匙を添える。
愛していないと告げられた翌朝も。
感謝の言葉は一度もなかった。
屋敷の経営も来客の手配も、すべて一人。
すべてを当然と思われたまま、彼女は命を落とした。
目を開けると、別の家の娘に生まれ変わっていた。
前世の記憶はすべて残っている。
あの食卓も、あの宣告も、消えてはいない。
社交の夜会で、かつての夫と再会する。
彼の目元には涙の跡が刻まれていた。
妻を失ってから泣き続けた人間の顔だった。
けれど彼女は知っている。
愛していなかった人間が流す涙の正体を。
あの蜂蜜壺の蓋が、なぜ閉じたままなのかを。
二度目の人生で、彼女は同じ蓋に手を伸ばすのだろうか。