あらすじ
「私たち、付き合ってたよ」
高校二年生の久世直は、ほとんど話したこともないクラスメイト・水城志乃から、突然そんな嘘をつかれる。
きっかけは、校内の噂を拡散する匿名アカウントだった。
そこには、直と志乃が昨年六月から半年間、誰にも知られず交際し、クリスマスイブに破局したと書かれていた。
完全なデマだった。
ところが志乃は、その場で投稿を否定しなかった。
匿名アカウントによって傷つけられ、学校へ来られなくなった親友を救うため、投稿者を突き止めようとしていたのだ。
直と志乃は、容疑者ごとに異なる交際情報を流すため、存在しない恋人時代を作り始める。
初めて名前で呼ぶのに、昔から呼び慣れているふりをする。
初めて二人で出かけるのに、過去のデートを再現しているふりをする。
初めて嫉妬するのに、元恋人への未練だと言い訳する。
人前では「直」と「志乃」。
二人きりでは「久世君」と「水城」。
嘘と本当を混同しないために決めた境界は、一緒に過ごす時間が増えるほど曖昧になっていく。
しかし二人は、最初に約束していた。
文化祭の閉会式が終わったら、すべてが嘘だったと明かし、話したこともなかった元の同級生に戻ると。
別れの日が近づくほど、二人の間には本物の思い出が増えていく。
付き合っていないのに、すでに別れている二人。
これは、存在しない恋を作るうちに初めて誰かを好きになった少年と少女が、文化祭でもう一度別れるまでの物語。