あらすじ

二〇二六年の秋。就職も決まり、無風の日々を送る大学四年の榊原奏太のもとに、五年前に終了したSNS「ピクト」が当時のまま復活したという報せが届く。開けば十四歳の自分が全部残っていた。深夜のポエム、綴りを間違えた英文。笑いながら遡った先に、覚えのない一行があった。明日、あいつを止める。二〇一八年十一月十四日、二十三時五十二分。翌日から先、彼の投稿は一件も存在しない。  復活しているのは四十四のアカウントだけだった。調べるうち、全員のログに同じ飛ばないリンクが埋まっていることに気づく。宛先は、二年A組でただ一人復活していない少女、白瀬乃衣。八年前、彼女が鍵付きアカウントで書いていた小説がクラスに晒され、ノイポエムと名付けられ、やがて文化祭の劇の台本にまでされた。奏太は晒される前、その小説の唯一の読者ミナモだった。四十四番目に紛れていたのは、自分の手で削除したはずのそのアカウントで、そこに今日の日付でコメントが付いていた。まだ持ってますか。  十一月十五日の記憶が戻る。奏太は教室でいちばん大きな声で笑っていた。放課後、校舎裏で自作ノートを燃やす乃衣から一冊を取り上げ、明日からは俺に話しかけないでと言った。翌日から彼女は学校へ来なくなる。そもそも小説を晒したのが誰なのかも判明する。今も一緒に調べている同級生の彩音だった。彼女は自分のしたことを覚えていない。奏太は言わないと決める。  東京で再会した乃衣は、校正の仕事に就いて淡々と暮らしていた。晒された夜から一年半、転校したあとも毎晩クラス全員の投稿を保存し続けたと彼女は言う。なかったことにされるのが嫌だったから、一文字も加えずに元の場所へ戻しただけだと。そして、あの一行を自分も読んでいたと明かす。当時あいつと呼ばれていたのは彼女自身で、予告として受け取り、それでも登校した。だから、あの日助けてくれてありがとうございましたと礼を言う。あいつが三上恭平のことだったとは、奏太には言えない。  サイトは翌日、その恭平が通報して消される。八年前に乃衣を晒した男が、自分の投稿が並んだ途端に潰した。落ちる直前、乃衣のアカウントに八年ぶりの投稿が一件だけ流れる。焼却の直前に書き足された、物語の続きの一行だった。読んだのは奏太だけだった。その夜、彼は自分の投稿をすべて削除する。残ったのは、そうちゃん@受験しない、というアカウント名だけだった。

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エブリスタ2026/08/01
  • 現在の作品そうちゃん@受験しない