あらすじ
誰もが知る『源氏物語』の世界。
桐壺帝の第二皇子として生まれた彼は、「厄日の生まれ」と忌み嫌われ、「光る君」光源氏の陰に隠れ、「曇り月の君」と蔑まれて生きてきた。
だが、彼の胸には、現代日本で生きた記憶が宿っていた。
華やかな宮廷の権力や名声には興味はない。彼が見据えたのは、炭・米・布、そして道と流通 —— 誰もが当たり前のように享受しながら、誰もその重要性に気づかない、国の根幹をなす仕組みだった。
元図書寮の老臣・小野古麻呂の知恵を借り、山伏たちの情報網を味方につけ、時に右大臣派の陰険な陰謀と闘いながら、彼は静かに手を打っていく。
良質な炭を生み出し、枯れた森に再び木を植え、乱れた流通を整え、生きるために盗人になった男たちにも、生きる場所を約束する。
やがて彼は、自ら低い役職と辺境の地を望み、臣籍に下る。
誰もが「つまらぬ宮」と笑う中、彼の手の中で、丹波・大津・難波は、国全体の命脈を握る要所へと変わっていく。
賀茂祭で出会った朝顔の君との、危機を乗り越えて結ばれた愛。
異母弟・光源氏が抱く、複雑な憧れと関心。
そして、いつしか国の行く末を左右する存在へと成長していく彼の姿。
光が輝くためには、それを支える闇と礎が必要だ。
「世の裏の月」は、今日も静かに、雲の下から国の未来を見つめ続ける。
平安の華やかな情緒と、現代的な視点が織りなす、『源氏物語』の知られざるもう一つの歴史が、ここに始まる。