あらすじ
契約と人間の欲望を食べて生きる彼は、悪魔としてはどうにも半端で、騒がしい人間も、外出も、面倒事も得意ではない。
自他ともに認める、引きこもりがちな悪魔である。
それでも彼は、煤と霧がとりまく街で小さな商売を続けている。
掲げる看板は「よろず不幸事より御守り候」。
成果報酬は「あなたが大切にしている宝石」。
迷子の猫。
受け渡し不可の「宝」。
不運の真珠。
果たせない約束。
帰らない恋人。
人間たちの不幸は、いつも遅れて彼のもとにやってくる。
失ったものは還らない。それでも彼は、食事と称して、彼らにお節介を焼きたがる。
そんな彼の前に現れたのは、帳簿と契約書を盾にして男を退ける銀行員マリアン。
朗らかで気丈な彼女は、五年前に南国へ発った婚約者を、今も待ち続けていた。
これは、言葉にならなかった誰かの記憶を、取り残された願いを、悪魔がひとつずつ味わい、抱きしめていく物語。
そして、過去の恋を手放せない女性と、誰にも見つけられなかった悪魔が、人外と人間の時間を分け合うまでの話。
※すでに投稿している1~5話の一部修正、幕間・後日譚を新たに書き下ろしました。ひとつの連作長編として再構成した完全版です。※