あらすじ
【あらすじ】
クレイヴン王国第一王女リディ・クレイヴンには、誰にも言えないもう一つの顔がある。
夜になると彼女は、怪盗「闇夜のローズ」として、戦争で奪われた祖国の宝石を追っていた。
かつてクレイヴン王国には、七冠石と呼ばれる七つの宝石があった。ローズクォーツ、サファイヤ、ダイヤモンド、ブラックオパール、インディコライト、ムーンストーン、アレキサンドライト。けれど長く続いた戦争の中で、その多くは国外へ流出し、密売や闇オークションの品として扱われるようになってしまう。
リディは亡き祖父レオナール前国王の願いを継ぎ、執事ジルとともに、奪われた七冠石を取り戻そうとしていた。
そんな彼女の前に現れたのが、アクランド帝国第一王子イアン・アクランド。五国連盟の発案者であり、表向きは怪盗ローズを追う冷徹な王子。けれど彼には、黒い仮面を被って裏社会に潜むもう一つの顔があった。
表では敵対し、夜には協力する王女と王子。
互いの正体、過去、そして亡き王との約束を知るほど、二人の距離は少しずつ近づいていく。
クレイヴン王国、アクランド帝国、ヴェルナ公国、ロザニア王国、ガルダン連邦。五国にまたがる宝石密売組織「黒羽商会」を追いながら、リディは王女として、怪盗として、そして一人の女性として、自分が守りたい未来を選び取っていく。
奪われた宝石を取り戻すため。
戦争の記憶を、次の世代に繰り返させないため。
これは、怪盗王女と仮面の王子が、宝石に隠された罪と恋を追うロマンスファンタジー。
【登場人物】※ネタバレあり
■主人公
リディ・クレイヴン(24)
クレイヴン王国の第一王女であり、正式な王位継承者。
幼少期に「血の二十年」と呼ばれる凄惨な戦争を経験し、祖国が宝石をめぐる争いに巻き込まれる姿を見て育った。王位は男性である弟が継ぐべきだと主張する声もあったが、王と王妃が課した官僚登用試験で満点を取り、実力によって継承者として認められる。
昼は毅然とした態度で王女としての務めを果たし、国民からも「完璧な次期女王」として愛されている。一方で、内心は心優しく、人を傷つけることを嫌う。朝、顔を洗って気合を入れる前に、誰にも見せない弱音を一人でこぼすこともある。ただし、その姿を他人に見せることはない。唯一、幼い頃から側にいる執事ジルだけがその弱さに気づいているが、リディ自身は知られているとは思っていない。
夜は怪盗「闇夜のローズ」として暗躍する。目的は、戦争中に他国へ奪われたクレイヴン王国の七つの宝石「七冠石」を取り戻すこと。王女として国を守り、怪盗として失われた宝石を追う、二つの顔を持つ主人公。
※補足:クレイヴン王国の歴史
クレイヴン王国は、スイスのように複数の国と国境を接する、海を持たない内陸の小国である。
古くから数多くの宝石が採れることから「宝石の王国」と呼ばれてきた。しかし、その豊かさゆえに、常に他国から侵略や干渉の対象となっていた。各国はクレイヴンの宝石を自国へ輸入するため、王族や貴族との結びつきを求め、その結果、王室・貴族・他国勢力の癒着が進み、政治は次第に腐敗していった。
そうした状況を変えようとしたのが、リディの祖父である前国王レオナール・クレイヴンである。彼は「宝石は人の欲を生み、その欲が世界を壊す」と考え、クレイヴン王国では今後一切、宝石の産出を行わないと決断した。
レオナールは、王室管理の鉱山封鎖、既存の輸出協定の破棄、王室・貴族が私的に保有する宝石の登録制、違反者への厳罰化を進めた。しかしその改革は、宝石による利益を失うことを恐れた国内外の勢力の反発を招き、やがて侵略戦争へと発展する。
そこから始まった長い戦争は、のちに「血の二十年」と呼ばれることになる。
現在は、国際機関の成立や世界秩序の成熟により、表向きの戦争は終結している。しかし、裏では宝石の密売、偽造鑑定書、貴族との癒着、闇オークションなどが今も続いている。世界中に散らばったクレイヴンの宝石は、国民にとって心の拠り所であると同時に、再び戦争の火種になりかねない危険な存在でもある。
そのためリディは、七冠石を取り戻し、祖国の誇りと平和な未来を守ろうとしている。
■主人公の執事兼護衛
ジル・モフロワ(29)
幼少期からリディに仕える執事であり、護衛役。
もともとは戦争孤児で、リディの祖父レオナールに仕えていた過去を持つ。幼い頃のリディにとっては、単なる執事ではなく、兄のように近しい存在だった。幼少期はリディの希望もあり、砕けた口調で話していたが、リディが正式に王位継承者として認められてからは、任務中以外は執事として礼儀正しく仕えるようになった。
兵役に従事した経験があり、体格にも恵まれているため、執事でありながら護衛としても優秀。リディが怪盗「闇夜のローズ」として活動する際には、相棒として彼女を支える。
任務中は、状況判断を優先するため、最低限の言葉数で話すことが多く、かつてのような砕けた口調に戻ることもある。リディの弱さや無理を誰よりも理解しているが、彼女が王女として立とうとする意志も尊重している。
また、過去にレオナールとともにアクランド帝国へ赴いた際、少年時代のイアン・アクランドと出会っている。そのため、イアンの過去やレオナールとの関係を知る数少ない人物でもある。
■ヒーロー
イアン・アクランド(28)
クレイヴン王国の隣に位置する大国、アクランド帝国の第一王子。
主に外交面の実務を担っており、国際機関にも出入りする有能な王子。社交界では美貌と地位から非常に人気が高いが、女性にはまったくなびかず、基本的に塩対応。表向きは冷静沈着で隙のない王子として振る舞っているが、本来は少し皮肉屋で、ひねくれたところもある。
過去に、リディの祖父レオナール・クレイヴンと出会っている。幼い頃、戦争のさなかで命の危機に瀕したところをレオナールに救われ、その理想と覚悟に強く影響を受けた。イアンにとってレオナールは、命の恩人であり、平和な未来を信じるきっかけとなった英雄でもある。
現在のイアンは、表向きは五国連盟の発案者として、国際秩序の維持に努めている。一方で、裏では黒い仮面を被り、身分を隠して裏社会に出入りしている。目的は、クレイヴンの宝石を利用して各国で違法取引や貴族癒着を広げる闇組織「黒羽商会」を追うこと。
周囲には「クレイヴンの宝石が自国にあるなら秘匿し、国益のために利用すべきだ」と考える者もいる。しかしイアンは、宝石を隠し持つことが新たな争いや腐敗を生むと理解している。そのため、クレイヴンの宝石を本来あるべき場所へ戻し、同時に自国アクランド帝国内に広がる違法取引と貴族癒着を断とうとしている。
リディとは、追う理由こそ異なる。リディは祖国の誇りと宝石を取り戻すために、イアンは国際秩序とアクランド内部の腐敗を正すために動いている。しかし、狙う敵が同じであるため、二人は次第に協力関係を築いていく。
表では怪盗ローズを追う王子。
夜は仮面を被り、ローズを助ける協力者。
二つの顔を持つイアンは、リディにとって最初は敵か味方かわからない厄介な存在だが、やがて亡きレオナールの願いを共有する仲間であり、心惹かれていく相手となっていく。
※補足:黒羽商会とイアンの目的
クレイヴンの宝石を狙う闇組織「黒羽商会」は、単に宝石を盗み売買しているだけではない。偽造鑑定書、通行証、貴族の名義貸しなどを利用し、各国の表社会にまで違法取引を浸透させている。
黒羽商会の暗躍は、クレイヴン王国だけでなく、アクランド帝国内にも及んでいる。違法取引や貴族との癒着が広がれば、国際秩序が乱れ、再び戦争の火種になりかねない。
そのため第一王子イアンは、表では五国連盟を通じて各国の協力体制を整え、裏では仮面の男として情報を集め、黒羽商会を追っている。
■レオナール・クレイヴン
リディの祖父で、クレイヴン王国前国王。戦争を終わらせ、周辺国と平和な未来を築くことを願っていた人物。イアンの命を救った過去があり、イアンにとっても英雄のような存在。