あらすじ
泣けない俺に、少年が斬らない理由をくれた。
名刀の力を体に宿した処刑人が、もう一度「人間」に戻っていく物語。
灰色の雨が降り続ける隔離都市〈|塔住区《とうじゅうく》〉。
そこでは、人々の怒りや悲しみ、恋する気持ちまでもが、首の後ろの端子で管理されていた。泣くことも、怒ることも、誰かを本気で好きになることも、危険なものとして扱われる世界だった。
|黒崎玄司《くろさきげんじ》は、その塔の地下で生きる処刑人。
名刀「|童子切《どうじぎり》」の力を宿した彼は、命令されるまま敵を斬り続け、いつしか自分の心まで凍らせてしまった。娘を失った悲しみも、誰かを守りたい気持ちも、もう思い出せない。
そんな|玄司《げんじ》が、未登録の少年・|燐《りん》を拾う。
生意気で、怒りっぽくて、まだちゃんと笑える子ども。その小さな存在が、玄司の止まっていた時間を少しずつ動かし始める。
やがて玄司の前に、三人の剣士が現れる。
反逆者となった|村正《むらまさ》の剣士・|天沢蓮《あまさわれん》。
かつて玄司と想いを通わせた、|三日月《みかづき》の剣士・|一ノ瀬結希《いちのせゆき》。
秩序を信じて戦ってきた、|正宗《まさむね》の剣士・|相馬守《そうままもる》。
四つの名刀の銘がそろったとき、塔の中枢に眠る未鑑定疑似神格〈エクスカリバー〉が動き出す。
「争いをなくすには、争う心を消せばいい」
「愛さなければ、誰も失って泣かずに済む」
その答えは、たしかに正しいのかもしれない。
けれど、悲しみも怒りも恋もなくした人間は、本当に救われたと言えるのか。
神格鑑定局が外から見守る中、玄司たちは塔の中枢へ向かう。
斬るためではなく、もう一度、泣ける人間として生きるために。
これは、鬼と呼ばれた男が、少年と仲間たちに出会い、最後に一度だけ本物の涙を取り戻す物語。