あらすじ

九年前、印刷、製本、戸籍、死亡記録を担う都市ヴェラムは、明けない夜の中へ閉じられた。住民は決められた生活を繰り返し、記録から消された病、飢え、裏切り、後悔は、紙と血と建物をまとった巨大異形《逸文獣》として街を徘徊している。 十五歳の見習い葬書師ネラは、都市から抹消された死者名簿を中央印刷院へ届けるため、白い外套と黒い製本針を携えて城門を越える。 逸文獣は、何度傷つけても再生する。倒す方法は一つ。攻撃圏内に留まり、動きの起点、狙っている対象、ただ一度生じる動作の破綻を読み切ること。負傷すれば、それまでの観察は痛みに崩される。それでも最後に現れる赤い縫い目《句点》へ、一針だけ刺さなければならない。 戦いの後、ネラは古い《無字印刷所》へ戻る。火のそばで傷を縫い、針を修理し、食事を分ける。怪物が残した活字を組むたび、閉ざされた部屋が開き、九年前に消された痕跡が一つずつ姿を現す。 死者の名を戻せば、この夜は終わるはずだった。だが中央印刷院へ近づくほど、街は怪物よりも整った顔で、ネラの名簿を拒み始める。

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カクヨム
カクヨム2026/08/02
  • 現在の作品『無字印刷所のネラ』 ~死者の名前を集める少女と、空白に喰われた街~