あらすじ

〈晴れ女〉と申します。  進水式に、棟上げに、船出に、契約の席に。十九年、二百三十一回、わたくしは座らされて微笑んで「本日は、よき日にございます」と申し上げてまいりました。走ったことはございません。転んで傷がつくと、縁起が悪いのだそうです。  そして本日、王国一の不運公爵と婚約いたします。  行く先で物が壊れ、人が転び、屋根が落ちる。婚約は三度流れ、わたくしが四人目。  顔合わせの乾杯の直後、天井飾りが落ちてまいりました。あの方がわたくしを抱えて避け、卓が傾き、床板が抜けて、二人そろって生垣へ。倒れた拍子に噴水が割れて、水柱が上がりました。  泥と葉と水をかぶって、わたくしは息を切らしておりました。  ——生まれて初めて、走ったのです。 「……申し訳ない」 「いいえ。最高です!」  次のお出かけでは馬車が逃げました。その次は緞帳が落ちました。舟は流されて、対岸の村の祝言で踊りました。家の者が書いた予定は、一項目も残ったためしがございません。  ——けれど、自分で書いた栞だけは、少しちがったのです。  あの方は大きな革の鞄をさげていらっしゃいます。縄、添木、笛、油紙、火口と火打ち、晒、香油、鋸、砂の袋、替えの靴紐。それに、人を雇うための銅貨が二十枚。——合わせて十一品。壊れたあとに、まだそこに居るための道具ばかりです。  うまくいかなかった日に隣にいてくれる人は、わたくし、これが初めてなのです。  ——さて、あの方。次は、どこへ行きましょう?

連載情報

ウェブ小説

配信言語
カクヨム
カクヨム2026/08/02
  • 現在の作品王国一の不運公爵と婚約しましたが、デートが毎回大冒険で最高です! ~噴水が割れても馬車が逃げても、次はどこへ行きましょう?~