あらすじ
十七年前、八年に及ぶ内戦を終わらせた「ミレシュ停戦協定」。
二つの国の言語で作られた正文は、どちらも等しく正しいものとされていた。
国境地帯で通訳者として働くレナ・ヴァルドは、交流授業のバスを誘導するため、一つの軍事命令を訳す。
その直後、警告射撃によって教師が死亡し、一人の少女が姿を消した。
銃撃事件、少女の失踪、そして停戦協定をめぐる解釈の対立。
三つの事件を追うレナは、十七年間守られてきた平和が、両国が同じ文章を異なる意味で読み、それぞれ別の約束をしたと信じることで成立していたと知る。
それは誤訳ではなかった。
当時の交渉者たちは、多くの命を救うため、意図的に一致しない二つの正文を残していたのだ。
だが、曖昧なまま保たれてきた停戦は、もはや維持できない。
戦争によって故郷を追われた人々の権利を回復するのか。
それとも、十七年間その土地で暮らしてきた人々の生活を守るのか。
正しい翻訳を探していたレナは、やがて一つの意味を公的な事実として選び、どちらかの人々を平和の外側へ置かなければならなくなる。
言葉は、異なる人間を理解させるためにあるのか。
それとも、理解できないまま同じ世界で生きるためにあるのか。