あらすじ
一ノ瀬玲(24)はオメガでありながら、フェロモンをほとんど発しない特異体質を持っている。学生時代、その体質を隠さず過ごしていた頃に受けた苦い経験から、玲は自分の香りのなさを「盾」として使うようになった。誰にも見つからず、誰にも求められず、ただ静かに生きていければいい――そう思って、小さな出版社で校閲の仕事を続けている。
ある日、担当することになった作家・深水蒼一(34)は、アルファでありながら、玲の「香らない」体質に初めて気づいた人物だった。彼は玲に無理に近づこうとはしない。ただ、静かに、変わらぬ距離感で接し続ける。
香りに頼らない関係。言葉と沈黙だけで育つ信頼。けれど、玲の体質の秘密を知る過去の関係者が現れたとき、二人の均衡は静かに揺らぎ始める――。
香りのない花にも、雨は降る。それでも枯れずに咲き続けられることを、玲はまだ知らない。