あらすじ

十日に一度、空が歪んで、箱が降ってきます。 ツヅラ村がそれを受け取りはじめて十一年。岩に刻んだ数は、三百八十七。中身は食べ物、布、油、薬。そして必ず、読めない字の札が貼ってあります。 読めるのは、わたしひとりです。 九年前に降ってきた子ども向けの絵じてんで、絵と字を突き合わせて、独りで覚えました。だから「要冷蔵」は氷室へ、「開封後はお早めに」は今日じゅうに配れ、「六百ワットで二分」は――六百の火で、二つ数えるあいだ。 村じゅうが、わたしの口を見ています。わたしが読んだとおりに、みんなが食べ、飲み、体に塗ります。 わたしが間違えても、誰も気づきません。 その秋、水を入れると熱くなる袋が五つ降ってきました。「水」も「熱」も読めました。村は沸きました。五回ぶんの薪。それだけのことで、この村は沸くのです。 ――札の下半分を、わたしは読み飛ばしていました。 わたしの絵じてんは、ものの名を教える頁ばかりで、言葉のつなぎ方を教える頁が一枚もありません。だから「ない」が、どこにも載っていないのです。 最後の一袋を、村は蓋を縄で縛った壺の中で使いました。蒸気の逃げ場がなくなり、破裂したのは壺のほうです。幼馴染のハギが顔と腕を焼き、村は「もらうか、断るか」で割れました。 わたしは九年ぶんの札を並べ直し、ある字の並びを見つけます。人が危ない目に遭った回に、必ず載っていた八文字。読み方も意味も分かりません。 だから、掟を破りました。焼くはずの空箱に、切り抜いた字を貼って、こう訊いたのです。 「これ なに」 十日後。降りてきた箱に、紙が一枚ありました。 わたしの間違いが、生まれてはじめて、直されていました。

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小説を読もう2026/08/01
  • 現在の作品空から降ってくる箱の字が読めるのは、村でわたしだけ ~「要冷蔵」も「六百ワットで二分」も訳せたのに、「してはいけません」が分からないのです~